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名古屋高等裁判所金沢支部 平成3年(ネ)202号 判決 1992年7月22日

控訴人

上棚生産森林組合

右代表者理事

德山正雄

控訴人

山下時義

常谷敦宏

西屋智加子

津田政夫

大葉敏正

井藤重信

山下周一

野村洋一

今野次男

河合章

河合陽子

辻口アイコ

辻口喜彦

辻口宏子

右一五名訴訟代理人弁護士

山崎利男

西徹夫

被控訴人

藤田敬夫

森田茂雄

亡貞茂治訴訟承継人

貞勝好

若狭リイ子

若狭長造

柳澤外世治

右六名訴訟代理人弁護士

鳥毛美範

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴人らの求めた裁判

一原判決を取り消す。

二被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二原判決「事案の概要」の追加訂正

一当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加する他は、原判決事実及び理由「第二事案の概要」(原判決一枚目裏九行目から同三枚目表四行目まで)記載のとおりであるから、これをここに引用する。

二争いのない事実

承継前の被控訴人貞茂治は、平成三年九月二日死亡し、その養子の貞勝好が単独相続人として控訴人上棚生産森林組合(控訴人組合)に加入し、右茂治の控訴人組合の持分についての権利義務を承継した。

三控訴人らの主張(組合員資格について)

まず、組合員資格の要件である「林業を行い又はこれに従事するもの」の意義についてであるが、造林、保育、伐採等第一次産業としての林業を経営し又はこれに従事するものに限定するのは、森林組合法及び森林法を形式的、表層的に解するものであるから相当ではない。森林の付加価値的利用、合理的利用を考慮し、自然破壊を伴わずに自然環境と調和し、止揚する形で市民の憩いの場、レクリエーションの場として環境改善を図ることを目的として林業を経営し又はこれに従事するものも含まれると解するのが相当である。ところで、本件対象現地は、ほとんどが雑木林が林立する状態で、元々造林、保育を企図した植裁林からはほど遠い状態であり、若干りんご園が存在するものの、最近の収益は大きな期待を寄せることができない。控訴人らの企図する事業は、まさに森林の付加価値的利用、合理的利用を目的とするものであり、控訴人らは、林業を行い又はこれに従事するものに該当する。

次に、組合員資格の要件である「上棚地区内に住所を有する」ことについてであるが、住所の移動を伴う場合、そこに直ちに生活実態が万般にわたり一時に移動かつ具備しなければならないものではなく、住所を変わる目的に伴い相当の期間を経て段階的に生活或いは事業目的の実態が伴うことで住所と認めることができるのである。控訴人組合を除く控訴人ら(個人控訴人ら)の大半は、上棚地区内に一斉転居したと言われてしかたないが、これは事業遂行に向かって鋭意、力を結集して是非とも控訴人らの事業を軌道に乗せるために一致団結して現地に身を投じた結果であって、本件総会決議に係る議決権行使の目的は付随的なものに過ぎない。以上からして、個人控訴人らは、組合員資格の要件である上棚地区内に住所を有するものにも該当する。

四被控訴人らの反論

本件における林業とは、森林組合法二条及び森林法一条一項の定める森林を対象とする、いわゆる第一次産業としての林業であり、それは森林組合法四条が非営利の原則及び奉仕の原則を定めていることからも明らかである。

確かに、個人控訴人らは、一度上棚地区内に住所変更の届出をしたが、その届出の前後を通じ、その届出住所地に現実に居住したことはなく、本訴提起後間もなくして元の住所地に変更の届出をしているのである。また、個人控訴人らに対しては、平成二、三年の両年度とも、控訴人組合から定款四九条に基づく配当はなされなかったのであり、このことは、同組合自身が個人控訴人らを組合員として取り扱っていなかったことの証左である。

控訴人らの右主張は理由がない。

第三争点に対する判断

一当裁判所も、被控訴人らの本件請求はいずれも理由があると考えるところ、その理由は、次のとおり削除・付加する他は、原判決事実及び理由「第三争点に対する判断(原判決三枚目表五行目から一二枚目裏五行目まで)記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決四枚目裏七行目から五枚目表七行目までを削除する。

2  同六枚目裏七行目「同月二五日」を「平成二年一〇月二五日」と改める。

3  同七枚目表初行から一〇枚目裏一〇行目までを削除する。

4  同一〇枚目裏末行「以上に加えて」を「また」と改める。

5  同一一枚目表三行目「ことごとく」及び同四行目「わずかに、被告辻口アイコに右「住所」があった程度である。」を各削除する。

二組合員資格である「林業を経営し又はこれに従事するもの」にいう「林業」の意味について

1  生産森林組合は、組合員として加入した地区内の林業経営者または林業従事者が、当該組合員の経営の協同化を図るために組織したものであるから、組合員が同組合の事業に従事することを当然予想しており、組合員を個人に限り、また一定割合以上の雇用労働を認めていないのもそのためである。すなわち、生産森林組合の組合員は、右の趣旨に照らし、自ら組合の事業に従事する義務を課せられているものである。したがって、森林組合法九四条二号所定の生産森林組合の組合員資格である「林業を行い又はこれに従事するもの」にいう「林業」とは、造林、保育、伐採等を業として行う、第一次産業としての林業事業を指すことが明らかであり、これに同法九三条に規定する付帯事業が加わる程度と解すべきである。

2  控訴人らは、造林、保育、伐採等第一次産業に限らず、自然破壊を伴わずに自然環境と調和し、止揚する形で市民の憩いの場、レクリエーションの場として環境改善を図ることを目的とする事業も右「林業」に当たると主張する。

なるほど、植林から伐採までに長年月を要し、原則としてその間には、投下資本の回収が直ちには望めないという林業の形態に照らせば、その期間内にいわば副次的利用によって、森林から収入を得ることは、勿論林業の範囲に入るものとして許容されるべきであって、例えば植林後樹木が成育するまでの間立木空間に農作物、きのこ等を栽培するとか、林間を放牧とか公園として利用するということは充分考えられ、更に国民のレジャーに対する考え方が多様化している近時では造林、保育等の林業事業それ自体をレクリエーションの対象とし、一般人に右に従事する機会を提供して一定の収入を挙げるとともに、林業本来の業務である造林作業に資するといった副次的観光事業も一定条件のもとでは可能であり、このような副次的利用をしたからといって、本来の林業事業を変質させるということにはならないと解される。

したがって、そのような場合には森林組合法一条及び森林法一条等に定める、森林の保続培養と森林生産力の増進を図るなどの目的に反するとまではいえず、その関係者を林業を経営ないしこれに従事するものとみる余地もある。

3  しかし、証拠(<書証番号略>)によると、控訴人らが主張する本件能登志賀リゾート開発計画(仮称)は、大阪府に本店を有する日コンハウス工業株式会社が事業主となって進めるものであり、その内容も現在森林地域である所にAゾーン=アップルゾーン(観光果樹園、フラワーセンター)、Bゾーン=スポーツゾーン(ゴルフ、リゾートホテル、クアハウス、テニス、プール)、Cゾーン=エキサイティングゾーン(モトクロス、サーキットパーク)、Dゾーン=プレイゾーン(森林公園、サイクルセンター、子供の国、ライディングクラブ、コンドミニアムパーク、テニス、ベースボール、ラグビー、ゲートボール、物産館、広場)を設置するという内容になっており、その開発内容に照らせば、現況の大幅な変更を伴う開発であり、本来的林業の副次的利用ないしは付帯事業などとは到底いえない本格的且つ大規模なリゾート事業であることが明らかである。

すると、それが必然的に自然破壊を伴う事業であるとまではいえないとしても、日コンハウス工業株式会社をもって、右地区における林業経営者ということは到底いえず、その会社の従業員、同社から土地買収のとりまとめを依頼された有限会社大生地建、株式会社石川サンホームないしはその会社の従業員はいずれも林業従事者とはいえず、その余の控訴人辻口アイコ、同辻口喜彦及び同辻口宏子は、右計画に従事しておらず、林業を行い又はこれに従事しているとの証拠はない。なお、日コンハウス工業株式会社の目的中には、植林に関する事業、材木の育成等が含まれている(<書証番号略>)が、本件地区でのものとはいえず、具体的に右地区で林業経営をしているとまでは認めることはできない。観光果樹園も計画されているが、前記認定に照らせば、それが計画の主体ではないことは明らかであるうえ、未だ完成していないから、現在控訴人のうちの誰かが果樹園経営に現に従事しているともいえない。

したがって、控訴人らの右主張は理由がない。

第四結論

よって、控訴人らの本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 横田勝年 裁判官 田中敦)

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